前回の記事では、「見積もり作成」と、その前段階の「ヒアリング」の重要性について解説してきました。
今回はその見積もりの作成方法について詳しく考えていきます。
「どうやって見積もりを作成したらよいのだろう…」と悩んでいる方も、作業内容や作業量に見合った見積もり作成ができるようになりますよ!
見積もり項目と算出方法
ヒアリングで得た情報をベースに、見積もりを作成します。Webデザインの見積もりは、一般的に以下の項目を積み上げて算出することが多いです。
- 企画・ディレクション費
・ヒアリング
・要件定義
・市場調査
・競合分析
・コンセプト設計
・サイト構成案(ワイヤーフレーム)作成
・プロジェクト全体の進行管理
などにかかる費用のことです。
プロジェクトの規模や複雑さによっても変動します。全体の10%~20%程度を目安にして算出することもあります。 - デザイン費
・トップページデザイン
・下層ページ(テンプレート)デザイン
・ロゴデザイン(既存のものがない場合)
・バナーデザイン
などの、各デザイン要素の制作にかかる費用を含みます。
ページ単価で設定する場合
(例:トップページ〇〇円、下層ページ1ページあたり〇〇円)と、全体のデザイン作業にかかる工数(作業時間 × 時間単価)で見積もる場合もあります。レスポンシブデザイン対応の有無も考慮して設定します。 - コーディング費(実装費)
HTML、CSS、JavaScriptなどを用いて、デザインカンプを実際にWebブラウザで見られる形に実装する作業にかかる費用です。
ページ数や各ページのレイアウトの複雑さ、インタラクション(動き)の量、CMS(コンテンツ管理システム)の組み込みの有無などによっても大きく変動します。
レスポンシブ対応(スマートフォンやタブレットなど異なる画面サイズに合わせて表示を最適化するもの)も、通常は必須の作業として費用に含めます。 - CMS構築費(WordPress導入など)
クライアントがお知らせやブログなどを自身で更新できるように、WordPressなどのCMSを導入・カスタマイズする場合の費用です。テーマの選定・カスタマイズ、必要なプラグインの導入・設定などが含まれます。 - 素材費(実費)
有料のストックフォト、イラスト、フォントなどをプロジェクトで使用する場合は、その購入実費を計上します。購入前に事前にクライアントに確認を取りましょう。 - 諸経費
遠方への打ち合わせに伴う交通費や、サーバー契約、ドメイン取得の代行手数料など、必要に応じて計上します。
工数(作業時間)の見積もり方
各作業項目に対して、どれくらいの時間がかかるかを見積もる「工数見積もり」は非常に重要な項目です。
フリーランスになりたての頃は、自分の作業スピードを正確に把握するのが難しいかもしれませんが、以下の点を意識しましょう。
作業の細分化
「トップページデザイン」といった大きな単位で考えるのではなく、
「情報設計」
「ワイヤーフレーム作成」
「デザインカンプ作成(PC版)」
「デザインカンプ作成(スマホ版)」
「修正対応」
など、
作業をできるだけ細分化して、それぞれの所要時間を予測しましょう。どのくらい時間がかかっているのかログをつけて把握していくことも大事です。
過去事例の参照
過去に類似した案件を手がけた経験があれば、その時の実績作業時間を参考にして設定するのもおススメです。事例を積み重ねていくことで設定金額の目安も身についてきます。
バッファ(予備時間)の確保
忘れがちですが、必ず予期せぬ修正依頼や技術的な問題の発生、クライアントからのフィードバック対応のためのバッファ(予備時間)を、全体の工数の10%~20%程度は見込んでおくことが大事です。バッファを見込んでおかないと、少しの遅れが全体のスケジュールを圧迫してしまい、リカバリーのために無理な稼働となり疲弊してしまう事にもつながるでしょう。
時間単価の設定
自分のスキル、経験、提供価値、そして生活に必要な収入などを考慮したうえで、時間単価を設定します。作業時間×時間単価にて算出していきます。
相場観の養い方
Webデザインの料金に決まった定価はありませんが、ある程度の相場は存在しています。他のフリーランスデザイナーや制作会社が公開している料金表を参考にしてみたり、信頼できる同業者に相談するなど、自分のスキルレベルや提供価値に見合った価格設定ができるよう、相場観を養っていくことも重要です。自信がないと安売りすることは自分の価値も下げてしまいますし、疲弊し事業の継続が難しくなるので避けましょう。
見積書の必須記載事項と提示時の注意
見積書は、クライアントに正式な金額を提示する「重要なビジネス書類」です。以下の項目を漏れなく記載して、誤解を招くことのないように明確に伝えましょう。
見積書の必須記載事項
- 宛名: クライアントの会社名、部署名、担当者名(敬称は「様」または「御中」)
- 発行日: 見積書を作成した日付
- 見積もり番号: 管理しやすいように、独自で番号を付けます。
- 有効期限: 見積もりの内容と金額が有効な期間(例:発行日から1ヶ月など)。原材料費の変動などがない限り、あまり短すぎる有効期限は避けた方が良いでしょう。
- 差出人情報: あなたの屋号(あれば)、氏名、住所、電話番号、メールアドレスなど。
- 件名: 「御見積書」と明記し、案件名も記載します(例:〇〇株式会社 コーポレートサイト制作に関する御見積書)。
- 見積もり金額(総額): 消費税込みの合計金額を大きく分かりやすく記載します。
- 作業範囲(業務内容): 「何を」「どこまで」やるのかを具体的に明記します。これが曖昧だと、後から「これもやってくれると思った」というトラブルに繋がります。
ーーーーー例ーーーーー
・トップページデザイン制作
(PC版デザインカンプ、
スマートフォン版デザインカンプ)
・下層ページデザイン3ページ分
テンプレート作成(PC版・SP版)
・HTML/CSS/JavaScriptコーディング
(全ページレスポンシブ対応)
・お問い合わせフォーム設置 - 見積もり明細: 各作業項目ごとの単価、数量(ページ数や工数など)、金額を記載します。小計、消費税額も明記します。
- 納期(目安): 成果物を納品する目安期日を記載します。契約内容やクライアントからの素材提供時期などによって変動する可能性があることを付記しておくと良いでしょう。
- 支払い条件: 支払い時期(例:契約時50%・納品時50%、納品後〇日以内に一括払いなど)、支払い方法(銀行振込の場合の振込先口座情報など)を明記します。
- 備考欄※重要: 以下の点を記載しておくと、後々のトラブル防止に繋がります。
- 修正回数の上限
例:「デザインカンプの修正は3回まで無料とさせていただきます。4回目以降の修正、および大幅なデザイン変更の場合は、別途追加料金をお見積もりいたします。」 - 追加料金が発生する場合の条件
例:「契約範囲外の作業(ページ追加、機能追加、大幅な仕様変更、クライアント都合によるコンテンツの大幅な差し替えなど)が発生する場合は、別途お見積もりとなります。」 - 著作権の取り扱いについての方針
(見積もり段階でも触れておくと良い)例:「制作物の著作権は、制作料金全額のお支払い完了をもって貴社に譲渡いたします。ただし、当方の制作実績としてポートフォリオ等に掲載させていただく場合がございます。」 - サーバー・ドメイン費用について
サーバー契約費用やドメイン取得費用が別途必要な場合はその旨を明記します。 - その他、前提条件など
例:「テキスト原稿および画像素材は作業開始前に全て支給いただく前提です。」
- 修正回数の上限
見積もり提示時の注意点
根拠を丁寧に説明する
単に見積書をメールで送付するだけでなく、可能であればオンラインミーティングなどで時間を設け、なぜその金額になるのか、各項目がどのような作業内容を含んでいるのかを丁寧に説明しましょう。それにより、クライアントの納得感を高められ信頼を得やすくなります。
複数のプラン提示(松竹梅アプローチ)
予算や要望に応じて、機能や作業範囲が異なる複数のプラン(例:基本的な機能のみのベーシックプラン、標準的なスタンダードプラン、高機能・高品質なプレミアムプランなど)を提示するのも有効な場合があります。クライアントが自身のニーズと予算に合わせて迷わず選びやすくなります。
値引き交渉への対応
安易な値引きは、自分の価値を下げるだけでなく、提供するサービスの質にも影響します。
まずは、提供する価値や作業範囲、工数を丁寧に説明し、価格の妥当性を理解してもらう努力をしましょう。どうしても予算がクライアントの希望と合わない場合は、作業範囲を縮小する、納期を調整するなどの代替案を提案できるか検討・調整を行います。
正確でニーズに寄り添ったヒアリングと、それに基づいた透明性の高い見積もりは、クライアントとの良好な関係を築き、プロジェクトを成功に導くための最初の、そして非常に重要なステップです。
この段階でしっかりとコミュニケーションを取り、お互いの認識を合わせることが、トラブルを防ぎ、スムーズな進行に繋がります。
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次の記事では、見積もりで合意が得られた後の「契約」について、フリーランスWebデザイナーが知っておくべきポイントを詳しく解説する予定です。ぜひチェックしてくださいね!